生活保護と年金は両方受給できる?

年金を受給していても生活保護を受けられます。年金が最低生活費よりも少ないときは、最低限度の生活を送るための援助を受けることが可能です。

一方、年金は収入とみなされ、生活保護を受給できるかどうかは年金受給額によって異なるため、「年金10万円受給していても生活保護が受けられるのか知りたい」「年金だけの場合と生活保護も受ける場合のどちらが得なのかわからない」といった声が上がっています。

そこで本記事では、年金受給者が生活保護を受けるための条件や申請方法について解説します。年金より生活保護の方が高いのはなぜか、年金と生活保護を併用する注意点などにも触れるので、ぜひ最後までチェックしてみてください。

これを読めば、年金と生活保護を両方もらえるかどうかが理解できますよ。

また、そもそもの生活保護制度の受給条件や申請方法や、受給のメリット・デメリットは以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。

▶生活保護の受給条件や申請方法、金額について解説!持てないものやデメリットも紹介

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年金と生活保護は両方もらえる

年金を受給中に生活保護は受け取れる?

年金を受給していても生活保護を申請し、両方もらうことができます。生活保護は、健康で文化的な最低限度の生活を保障できる最低生活費の確保が目的の制度です。年金を受給していても受給額が最低生活費を下回っていれば、生活保護を受給できる可能性があります。

年金と生活保護を同時に受給するための条件

年金と生活保護を同時に受給するには、いくつかの条件があります。この条件は保護の要件と呼ばれ、定められているのは以下の4つです。

  • 資産の活用
  • 能力の活用
  • あらゆるものの活用
  • 扶養義務者の扶養

年金が最低生活費を下回っている

年金受給額が最低生活費を下回っている場合

年金の活用は「あらゆるものの活用」に該当するため、生活保護の受給よりも年金を使って生活することが優先です。一方、国が定める最低生活費を年金受給額が下回っている場合は、生活保護を受給できる場合があります。この場合、最低生活費から年金受給額を差し引いた金額が生活保護の支給額です。

最低生活費は、居住地域・世帯人数・年齢などによって異なります。居住地域は1級地-1〜3級地-2まで6段階に別れており、その地域での生活に必要な額で基準額が定められているため、確認しておきましょう。級地区分は厚生労働省の公式サイトで確認できます。

最低生活費の計算式は、厚生労働省の公式サイト「最低生活費の算出方法」をチェックしましょう。

家族や親族からの援助が受けられない

親族からの援助が受け取れない

生活保護受給の要件である「扶養義務者の扶養」により、生活保護よりも家族・親族からの支援が優先されます。したがって、生活保護を受けられるのは、家族や親族からの援助が受けられないと判断された世帯です。仮に、家族や親族が遠方に住んでいたとしても、同居したり仕送りをもらったりできる場合は生活保護を受給できません。

生活保護を申請すると、三親等(曾祖父母・おじ・おば・甥・姪)までを対象に「申請者を扶養できないか」の書面調査が行われます。仮に援助するという親族がいれば、生活保護は受給できません。援助を断られたり回答がなかったりした場合は、「親族からの援助は受けられない」と判断されます。

預貯金や土地などの資産を保有していない

十分な貯金や土地などの資産を持っていない

生活保護を受けるための要件である「資産の活用」により、十分な貯金があると生活保護の受給はできません。持っていてもよい預貯金の目安は、最低生活費の半額以下です。また、土地などの資産を持っていると、売却して生活費に充てられると判断され、生活保護を受給できないケースがあります。

公的融資制度や公的扶助を利用したことがある人

生活保護以外にも、困窮者の救済を目的とした、国から生活費を借りられる公的融資制度が存在します。これらも「あらゆるものの活用」に該当するため、生活保護の受給できるのは公的融資制度を利用した(利用を検討した)がそれでも困窮状態が解消しなかった世帯です。まずは、公的融資制度が利用できないか検討してみましょう。

公的融資制度の例
公的融資制度名 対象者 申請・相談先
生活福祉資金貸付制度 生活困窮世帯 福祉事務所
母子父子寡婦福祉資金貸付金 20歳未満の子を持つひとり親 福祉事務所

以前は、年金を担保に融資を受けられる年金担保貸付制度がありましたが、受付が終了しました。公的融資制度も生活保護と同じように福祉事務所で相談できるものがあります。よくわからないときは、福祉事務所に問い合わせてみてください。

働くことが求められるケースもある

働くことが必要な場合もある

生活保護の受給要件には「能力の活用」があり、病気やケガなどやむを得ない理由がない限りは働いて収入を得ることが求められます。ただし、65歳以上の年金受給者は、必ずしも能力の活用を求められないのが一般的です。

なお、申請者の状況や担当の福祉事務所によっては、65歳未満の申請者と同様に就労が求められるケースもあります。また、本人が仕事を希望すれば支援してもらえることが多いため、必要に応じてケースワーカーに相談してみてください。

年金受給中の生活保護支給額シミュレーション

年金受給中の生活保護支援額の算出方法とは?

厚生労働省の公式サイト「最低生活費の算出方法」を参考に、年金受給中の生活保護支給額をシミュレーションしてみましょう。なお、正確な支給額は福祉事務所に問い合わせてください。

70歳の年金受給者の1人世帯を想定した場合の生活保護支給額をシミュレーションすると、最低生活費は以下の表のとおりです。

年金受給者(70歳)の1人世帯の最低生活費目安
居住地域 生活扶助(円) 住宅扶助(円) 最低生活費(円)
東京都23区 1級地-1 75,250 53,700 128,950
福岡県福岡市 1級地-2 73,850 36,000 109,850
北海道函館市 2級地-1 71,990 30,000 101,990
広島県三原市 2級地-2 70,140 35,000 105,140
埼玉県飯能市 3級地-1 69,670 40,900 110,570
香川県さぬき市 3級地-2 67,350 32,000 99,350

最低生活費は居住地域・世帯人数・年齢によって前後します。年金受給者の年齢区分は、65〜69歳・70〜74歳・75歳以上の3つです。1級地-1にあたる東京都23区内で比較すると、年齢区分別の最低生活費は以下の表のようになります。

東京都23区における年金受給者の最低生活費目安
年齢区分 生活扶助(円) 住宅扶助(円) 最低生活費(円)
65〜69歳 76,880 53,700 130,580
70〜74歳 75,250 53,700 128,950
75歳以上 71,900 53,700 125,600

生活保護の支給額は、上記の最低生活費から年金受給額を差し引いた金額が目安です。年金受給額が多いほど生活保護支給額が減ります。東京都23区に暮らす70歳の年金受給者の場合は、年金受給額13万円以上を目安に、最低生活費を年金受給額が上回るため、生活保護の受給は難しいといえるでしょう。

東京都23区における年金受給者(70歳)の生活保護支給額目安
年金受給額 生活保護支給額(目安)
3万円 98,950円
6万円 68,950円
9万円 38,950円
12万円 8,950円

生活保護の申請方法

生活保護の申請方法を解説します。生活保護の申請手順は以下のとおりです。

生活保護を受給するまでの流れ

  • 申請に必要な書類をできるだけ準備する
  • 福祉事務所に事前に相談する
  • 福祉事務所で生活保護を申請する
  • 受給に必要な調査を受ける
  • 生活保護を受給する

申請に必要な書類をできるだけ準備する

必要な書類を揃える

生活保護の申請には、いくつかの書類提出が必要です。生活保護申請書や各種申告書などは福祉事務所に置いてあるため、福祉事務所に行ったときに記入すればよいでしょう。一方、申請書・申告書の記入や申請に必要な以下の書類などは、事前に用意しておくと手続きがスムーズです。

事前に用意しておくとよいもの

  • 賃貸借契約書
  • 通帳
  • 印鑑
  • 本人確認書類(運転免許証・健康保険証など)
  • 給与明細など収入がわかるもの

なお、事前に用意できない場合は無理に揃える必要はありません。用意できるものだけを持参して、福祉事務所に相談に行きましょう。

福祉事務所に事前に相談する

福祉事務所に相談する

住んでいる地域の福祉事務所(生活相談などの窓口)に行き、生活保護を受給したい旨を相談しましょう。担当者が経済状況や就労状況などについてヒアリングを行い、生活保護が必要かどうかを判断します。生活保護が必要だと判断されたら、その場で申請書などを記入して申請が可能です。

なお、住む場所がなくても生活保護の申請は可能です。現在いる場所から近い福祉事務所に相談に行きましょう。

各都道府県の福祉事務所は厚生労働省の公式サイトで確認できるため、最寄りの福祉事務所の場所を確認しておきましょう。窓口の受付時間は福祉事務所によって異なりますが、平日の8:30〜17:30前後としている場合が一般的です。

福祉事務所で生活保護を申請する

福祉事務所に生活保護申請する

福祉事務所で生活保護の受給を申請します。生活保護申請書や、資産・収入などの申告書を記入して提出しましょう。福祉事務所内で記入できるので、わからない場合は担当者に質問しながら記入してください。

受給に必要な調査を受ける

受給条件の調査が入る

申請が完了すると、生活保護の受給条件を満たしているかの調査が始まります。

まず、申請から1週間以内を目安にケースワーカーによる家庭訪問を受けましょう。ケースワーカーとは、生活に困っている人を支援するのが仕事の公務員のことです。家庭訪問では、住居の状態や世帯人数、売却できる資産がないかどうかなどがチェックされます。

家庭訪問と同時に、扶養調査も実施されます。住民票や戸籍謄本から親族を調査し、援助を受けられる可能性がないか調べるのが扶養調査です。さらに、金融機関などの残高照会により、預貯金や借入金がないかどうかも確認されます。

生活保護を受給する

生活保護の受給が始まる

生活保護を受給できるかどうかの結果は、申請から14日以内を目安に通知されます。自宅に届く保護決定通知書または保護却下通知書を確認しましょう。

無事に生活保護を受けられる場合は、保護決定通知書が届きます。通知書には、保護が決定した理由や支給額などが記載されているためチェックしておきましょう。初回は生活保護の受給が決まった日に手渡しでの支給です。その後は、直近の支給日から口座振込での生活保護の支給がはじまります。

支給が開始した後も、毎月ケースワーカーに収入を報告するなどの義務が発生します。何をしたらよいのかは、担当のケースワーカーの指示に従ってください。

生活保護受給中に持てるもの・持てないもの

生活保護受給中には、持っていいものと持ってはいけないものがあります。持ってはいけないものを保有していると指導が入り、最悪の場合支給額の減額や支給停止のリスクもあるため注意してください。

生活保護受給中に持てるもの

生活保護受給中に持てるものとは?

生活保護受給中でも持てるのは、「資産ではないもの」か「資産だが生活に必要なもの」です。具体的に持てるものの例には、以下のようなものがあります。

  • 家電・家具・衣類など
  • ローン完済した持ち家
  • 公共交通機関がない地域における車
  • スマホやPC

まず、家電・家具・衣類など生活に必要なものは所有できます。ただし、あまりにも高価なものは不要な資産とみなされる可能性があるため要注意です。持ち家の場合も、ローンを完済していればそのまま住み続けられます。車がないと生活ができない地域では、車の所有も可能です。

スマホやPCも、生活や仕事に欠かせない必需品として所有が認められます。ただし、2台目以降は指導が入る可能性もあるため、それぞれ1台までにしておくのが無難です。

生活保護受給中に持てないもの

生活保護受給中に持てないものとは?

生活保護受給中に持てない代表的なものは、以下のとおりです。

  • 一定額以上の預貯金
  • 不要な車・バイク
  • 住んでいない不動産
  • 有価証券(株など)
  • 貯蓄型保険
  • 高価なもの(ブランド品など)
  • 2台目以降のスマホ・PC

一定額以上の預貯金は「生活に余裕がある」と判断される可能性があるため注意が必要です。とはいえ、支給金の貯金は認められており、家電や大学資金などまとまったお金が必要なケースもあるでしょう。認められる貯金額は自治体や事情によって異なるため、ケースワーカーに相談してみてください。

生活保護受給中は、車・バイクの所有は認められないケースがほとんどです。しかし、公共交通機関が少ない地域やケガなどで車がないと移動できない場合は、例外として車の所有が認められます。とはいえ高級車の所有はできません。維持費が安い軽自動車であれば、認められる可能性が高いでしょう。

住んでいない不動産の所有はできません。住んでいてもローン返済中だと、生活保護をローン返済に充てられないため、所有が認められないケースがほとんどです。ただし、ローン残債が少ない場合や毎月の返済額が少ない場合、賃貸に住むよりも安く済むと判断されれば所有が認められる可能性もあります。

株などの有価証券や貯蓄型の保険、その他高級品も資産とみなされるため所有できません。生活必需品であるスマホやPCも、2台目以降は許可されないケースがあるため注意してください。

年金と生活保護を同時に受給する際の注意点

生活保護受給中はいくつかの注意事項があります。ルール違反をすると、支給額の減額や支給停止のリスクもあるため、事前にチェックしておきましょう。

ケースワーカーの指導には従う

ケースワーカーの指導を受ける

生活保護受給中は、定期的にケースワーカーと話す機会があり、就職に向けた活動や生活習慣などに関するさまざまなアドバイスがあります。ケースワーカーのアドバイスは真摯に受け止め、社会復帰を目指しましょう

ケースワーカーの指示や指導に従わない場合、支給額が減ったり支給が停止されたりするリスクがあります。収入や生活状況についてはしっかり報告し、困っていることは相談するなどして、お互いに誤解の生まれない関係を作ることが大切です。

生活保護を借金・ローンの返済に充てない

借金やローンの返済には充てられない

生活保護で支給されたお金は、借金やローンの返済に充ててはいけません。生活保護受給中も借金は禁止されていませんが、返済が困難になる確率が高いため避けた方が無難です。借金やローンの返済で困っている場合は、債務整理を検討しましょう。

高価なものや資産を所有しない

高価なもの・資産は所有できない

ブランドバッグや高級時計など、高価なものは所有できません。ケースワーカーに隠れて所有していると指導を受ける可能性もあるため注意してください。

年金と生活保護に関するよくある質問

年金と生活保護に関するよくある質問とその回答を紹介します。

年金よりも生活保護の支給額の方が高いのはなぜ?

年金より生活保護の方が高いのはなんで?

年金と生活保護は仕組みや支給の目的が異なります。加入月数や年収に応じて金額が決まる年金に対し、生活保護の支給額を決めるのは最低生活費です。年金受給額が最低生活費を下回れば、結果的に年金よりも生活保護支給額の方が高くなります。

年金だけ受給するのと生活保護と一緒に受給するのはどちらが得?

年金と生活保護を同時に受給するのはお得?

年金だけで生活するのと、年金と生活保護を両方受給して生活するのとでは、基本的に両方受給した方がお得です。生活保護を受給すると、支給額以上に一部の税金や医療費の負担が免除されます。車をはじめとした資産の所有は制限されますが、生活保護を受給した方が生活コストを抑えられるでしょう。

遺族年金は生活保護に影響する?

遺族年金は生活保護受給に影響する?

遺族年金も収入としてみなされるため、生活保護に影響します。最低生活費から遺族年金を含む収入を差し引いた額が、生活保護の支給額です。遺族年金を含む収入が最低生活費を上回れば、生活保護は受けられません。

年金13〜14万円でも生活保護は受けられる?

年金受給額が13万〜でも生活保護は受給できる?

年金が13〜14万円と比較的高額であっても、世帯人数によっては生活保護を受給できる可能性があります。例えば、以下の70歳夫婦2人世帯のケースを考えてみましょう。

70歳夫婦2人世帯の最低生活費目安
居住地域 生活扶助(円) 住宅扶助(円) 最低生活費(円)
東京都23区 1級地-1 121,309 64,000 185,309
福岡県福岡市 1級地-2 118,865 43,000 161,865
北海道函館市 2級地-1 115,611 36,000 151,611
広島県三原市 2級地-2 112,546 42,000 154,546
埼玉県飯能市 3級地-1 111,548 44,000 155,548
香川県さぬき市 3級地-2 107,494 38,000 145,494

市区町村によって住宅扶助の基準額が違うため多少の差はあるものの、70歳の2人世帯であれば最も低くなる傾向がある3級地-2でも最低生活費は14万円以上となる計算です。したがって、年金が13〜14万円あっても生活保護を受けられる可能性はあるでしょう。

一方、1人世帯の最低生活費は最大になる条件でも13万円程度です。年金受給額が13〜14万円あると、生活保護の受給は難しいでしょう。

生活保護の受給中は年金の支払いが必要?

生活保護の受給中でも年金を支払う義務がある?

生活保護の受給中は、20〜60歳の成人に義務付けられている国民年金保険料の支払いが免除されます。したがって、年金を払わずに生活保護を受けることが可能です。保険料を支払っていないため国民年金保険の資格を喪失しますが、生活保護でも医療費は原則無料になります。

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