生活保護受給者でも引っ越しはできます。やむを得ない事情での引っ越しであれば、生活保護の中から引っ越し費用を支給してもらうことも可能です。
ただし、自己都合の引っ越しなど一部費用負担を受けられないケースもあるため、「生活保護受給中でも引っ越しが認められる条件が知りたい」「どんな引っ越し費用なら負担されるのかわからない」といった声が上がっています。
そこで本記事では、生活保護受給世帯の引っ越しが認められるケースや費用を支給してもらえる条件について解説します。引っ越し費用のうち、どの費用が支給対象なのかにも触れるので、ぜひ参考にしてみてください。
これを読めば、生活保護受給中に費用の支給を受けて引っ越せる条件が理解できますよ。
目次
生活保護受給者も引っ越しはできる
生活保護の受給中でも自由に引っ越しはできます。ただし、ケースワーカーへの相談は必須です。ケースワーカーの許可がないまま引っ越すと、生活に余裕があると見なされて生活保護の受給がストップしてしまうリスクもあるため注意してください。
また、一定の条件を満たす引っ越しなら、費用を自治体が負担してくれます。以降では、費用を負担してもらって引っ越しができる条件を解説するのでチェックしてください。
費用が支給される生活保護受給者の引っ越し条件
生活保護受給中の引っ越しで費用が支給されるのは、以下の16個の条件のうちどれかに当てはまる場合です。基本的には、自己都合での引っ越しの場合、費用を支給してもらうのは難しいでしょう。
- 入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合
- 実施機関の指導に基づき、現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合
- 土地収用法、都市計画法等の定めるところにより立退きを強制され、転居を必要とする場合
- 退職等により社宅等から転居する場合
- 法令又は管理者の指示により社会福祉施設等から退所するに際し帰住する住居がない場合(当該退所が施設入所の目的を達したことによる場合に限る。)
- 宿所提供施設、無料低額宿泊所等の利用者が居宅生活に移行する場合
- 現に居住する住宅等において、賃貸人又は当該住宅を管理する者等から、居室の提供以外のサービス利用の強要や、著しく高額な共益費等の請求などの不当な行為が行われていると認められるため、他の賃貸住宅等に転居する場合
- 現在の居住地が就労の場所から遠距離にあり、通勤が著しく困難であって、当該就労の場所の附近に転居することが、世帯の収入の増加、当該就労者の健康の維持等世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合
- 火災等の災害により現住居が消滅し、又は居住にたえない状態になったと認められる場合
- 老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合
- 居住する住居が著しく狭隘又は劣悪であって、明らかに居住にたえないと認められる場合
- 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合又は高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合
- 住宅が確保できないため、親戚、知人宅等に一時的に寄宿していた者が転居する場合
- 家主が相当の理由をもって立退きを要求し、又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れを行ったことにより、やむを得ず転居する場合
- 離婚(事実婚の解消を含む。)により新たに住居を必要とする場合
- 高齢者、身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため、扶養義務者の住居の近隣に転居する場合
※引用:現下の状況における、住宅扶助基準を上回る家賃の住居に居住する要保護者に対する転居に係る指導の取扱いについて(厚生労働省 社会・援護局保護課)
以降では、上記16個の条件をカテゴリー分けして簡単にわかりやすく解説します。
ケースワーカーから指示があった場合
今住んでいるところよりも家賃が安い家に引っ越すようにケースワーカーから指示がある場合があります。このケースの引っ越しでは、費用を支給してもらうことが可能です。主に、支給される住宅扶助の上限額に対して家賃が高いときに引っ越しを指示される場合があります。
今の家に住めなくなった場合
何らかの事情で今の家に住み続けるのが困難になった場合、費用の支給を受けて引っ越すことが可能です。具体的には、以下のようなケースが当てはまります。
- 火災や地震などの災害の被害を受けた
- 家が住めないほど老朽化した
- 強制立ち退きの指示を受けた
- 退職などで社宅を退去するよう指示された
- 家主や管理会社から居住や契約更新を拒否された
上記のような場合は、ケースワーカーに事情を説明して転居の手続きを開始しましょう。
今の家での生活が難しい場合
物理的に住めないわけではないが今の家での生活は困難と判断された場合にも、費用を負担してもらっての引っ越しができます。具体的には以下のようなケースです。
- 設備面や周囲の衛生面などを考慮して劣悪な状態になっている
- 高齢者や身体障害者がいる世帯において生活するのが困難な構造になっている
- 不適切な管理費の引上げなど管理会社から不当な扱いを受けている
- 周囲からの犯罪行為や同居人からのDV被害を受けている
上記のようなケースは、命に関わるような場合もあります。当てはまるのであればすぐにケースワーカーに相談して引っ越しの手続きを開始しましょう。
仮住まいから転居する場合
仮住まいの状態から独立する場合にも、引っ越し費用が支給されます。具体的には以下のようなケースです。
- 入院先の病院から退院した後の住む場所がない
- 施設から退所した後の住む場所がない
- 親戚・知人宅での仮住まいを終えた後の住む場所がない
仮住まいを終えることが確定したら、速やかにケースワーカーに相談して引っ越しの手配をはじめましょう。
転居した方が生活が改善する場合
転居した方が明らかに生活が改善するケースでも、引っ越し費用を負担してもらえる可能性があります。具体的には以下のようなケースです。
- 就労先の近くに転居する
- 介護などを理由に扶養義務者の家の近くに転居する
このケースでは、転居が経済的・合理的かがしっかりチェックされます。場合によっては転居が認められないこともあるため、事情や引っ越しのメリットをしっかり伝えられるように準備することが大切です。
生活保護受給者の引っ越しで支給される費用
引っ越しにはさまざまな費用が発生しますが、生活保護受給中の引っ越しで支給されるのはそのうちの一部です。ここでは、生活保護受給世帯の引っ越しで支給される費用について解説します。
支給対象の引っ越し費用
引っ越しにかかる各種費用のうち、生活保護受給世帯の引っ越しで支給される費用・支給されない費用は以下の表のとおりです。
生活保護世帯の引っ越し費用の項目別支給有無 | |
---|---|
引っ越し費用 | 支給有無 |
家財運搬費 | 支給あり |
敷金・礼金 | 支給あり |
前払い分の家賃 | 支給あり |
管理費・共益費 | 対象外 |
火災保険料 | 支給あり |
不動産会社の仲介手数料 | 支給あり |
保証会社の初回費用 | 支給あり |
24時間サポート・安心サポート費用 | 対象外 |
駐輪場使用料 | 対象外 |
町内会費 | 対象外 |
ペット関連費用 | 対象外 |
ハウスクリーニング費用 | 対象外 |
鍵交換費用 | 対象外 |
エアコンなどの家具の購入費 | 支給あり |
家財運搬費や敷金・礼金、保証会社に支払う費用など必須の初期費用は支給対象です。一方、24時間サポートや駐輪場利用料などオプション扱いの費用や、ペット関連の費用は支給されません。発生することが多い管理費・共益費も支給対象外なので、できるだけ負担の少ない物件を選んだほうがよいでしょう。
退去費用は原則支給されない
前述の費用別支給有無の表でも触れたとおり、退去前の家でのハウスクリーニング費用や鍵交換費用は支給対象外です。修繕費などが発生した場合も費用は支給されない点には注意しましょう。高額な費用が発生する場合は、分割での支払いができないか相談してみてください。
地域ごとに上限額が決まっている
引っ越し費用は生活保護の住宅扶助として支給されますが、支給額には地域ごとに上限があります。上限金額は、以下の式で計算可能です。
引っ越し費用として支給される上限額の算出式
- 7人未満の世帯:住宅扶助上限額×1.3
- 7人以上の世帯:住宅扶助上限額×1.3×1.2
住宅扶助の上限額は、居住地域と世帯人数によって異なります。正確な住宅扶助の上限額は、各自治体・福祉事務所に問い合わせて確認してください。引っ越し費用が支給上限を超えた分は自己負担になるか、ケースワーカーから引っ越しの許可が出なくなるケースもあるため注意しましょう。
住宅扶助についての詳しい情報は、以下の記事で解説しています。必要に応じて参考にしてみてください。
生活保護受給中に引っ越しをする手順
生活保護受給中の引っ越しには、決められた手順があります。
ケースワーカーに相談する
引っ越しを希望する場合は、まず担当のケースワーカーに相談しましょう。条件を満たしていれば、引っ越し費用を負担してもらえます。前述の費用支給を受けられる条件を満たしていることを証明できるものがあれば、事前に用意しておくとスムーズです。
不動産会社で物件を探す
引っ越しが認められたら、不動産会社で引っ越し先の物件を探しましょう。原則、住宅扶助の上限額内で支払える家賃の物件にしか引っ越せない点に注意しながら、希望する物件を決めてください。
福祉事務所に物件を報告して入居審査を受ける
引っ越しを希望する物件が決まったら、福祉事務所に報告してください。生活保護受給中の引っ越し先として適切であることが確認できたら、次の入居審査に進みましょう。
重要事項説明書を福祉事務所に提出する
無事、入居審査を通過したら、不動産会社から重要事項説明書という書類を受け取ります。重要事項説明書は福祉事務所に提出してください。
3社から引っ越し費用の見積もりをもらって福祉事務所に提出する
入居先が決まったら、引っ越し会社から費用の見積もりをもらいましょう。生活保護受給世帯の引っ越しでは、最低3社から費用見積もりをもらうことが義務付けられています。3社分の見積もりが揃ったら、福祉事務所に提出してどの会社を利用するか指示を受けましょう。
賃貸契約を結んで引っ越す
引っ越し費用の支給を受ける場合は、福祉事務所で初期費用を受け取れます。受け取った費用で初期費用を支払い、賃貸契約を結びましょう。その後、家財運搬などの引っ越し作業が完了したら、引っ越し費用の領収書を福祉事務所に提出して手続きは終了です。
生活保護受給者は賃貸物件の入居審査に落ちやすい理由
生活保護受給者は、賃貸物件の入居審査に落ちやすいといわれています。事前にその理由を確認しておきましょう。
入居者トラブルを懸念される
生活保護受給者には精神疾患がある人もいるため、物件の管理会社やオーナーは入居者間のトラブルを懸念して審査を通過させないケースがあります。他の入居者に悪影響があると退去者を出してしまい、結果として空き部屋を増やしてしまう原因になってしまう可能性があるためです。
家賃滞納を懸念される
生活保護受給者は生活に困窮した人なので、家賃滞納を懸念して入居審査で落とす管理会社・オーナーも存在します。実際には住宅扶助で家賃分の支援を受けているため正しく支払えば問題ないものの、審査落ちの原因になりやすいため注意が必要です。
役所とのやり取りが増えることを懸念される
生活保護受給者を入居させると、管理会社やオーナーは役所・福祉事務所とのやり取りが増えます。役所・福祉事務所とのやり取りの手間を嫌って入居を断られるケースもあります。
生活保護受給者でも物件を借りやすくするポイント
上記のような入居審査に落ちやすい理由に対して、物件を借りやすくするポイントを紹介します。
生活保護に詳しい不動産会社を利用する
生活保護受給者が物件探しをする場合は、生活保護に詳しい不動産会社や生活保護受給者の対応経験が豊富な不動産会社を利用することをおすすめします。地域ごとに生活保護などの福祉制度に強い業者が存在するため、優先的に利用するとよいでしょう。
どの業者を利用するかは、ケースワーカーにも相談してみてください。
不動産会社に生活保護の受給理由をしっかり伝える
物件探しをする不動産会社に、生活保護の受給理由を明確に伝えることも重要です。「リストラで一時的に生活が困窮した」「ケガで働けないため支援を受けた」など、入居者トラブルに繋がるような理由でないことがわかれば、入居審査に落ちにくくなるでしょう。
審査基準が緩い保証会社を選ぶ
生活保護世帯は基本的に親族の支援を受けられない世帯なので、物件の契約時は保証会社を利用するのが一般的です。この保証会社選びにおいても、比較的審査が緩いところを選べば審査に落ちにくくなる可能性があります。生活保護に強い不動産会社を利用したうえで、保証会社についても相談してみましょう。
代理納付制度を利用して家賃を支払う
原則、生活保護で支給される住宅扶助を使った家賃の支払いは受給者自身が行う必要があります。ただ、申請すれば役所が直接家賃を支払う「代理納付制度」を利用可能です。代理納付制度を使えば家賃滞納のリスクは低くなるため、入居審査に通りやすくなる可能性があります。
生活保護世帯の引っ越しに関するよくある質問
生活保護世帯の引っ越しに関するよくある質問とその回答を紹介します。
生活保護受給中でも自己都合で勝手に引っ越していい?
生活保護受給世帯でも、自己都合で勝手に引っ越したとしても法律に違反するわけではありません。ただ、勝手に引っ越すと費用はすべて自己負担となるうえ、「生活に余裕がある」と判断されて生活保護が受給できなくなるリスクがあります。ケースワーカーの許可を得たうえで引っ越しましょう。
県外・市外・区外への引っ越しは可能?
生活保護受給中に県外・市外・区外へ引っ越すことは可能です。条件を満たしていれば、引っ越し費用も負担してもらえます。
ただし、特に県外への引っ越しは費用が高額になる可能性が高いため、支給額では引っ越し費用全額を賄えない場合がある点には要注意です。また、管轄の福祉事務所が変わるため移管手続きが行われます。無断で引っ越すと移管手続きができないため、必ず事前に福祉事務所の許可を取りましょう。
生活保護受給中の2回目の引っ越しでも認められる?
生活保護受給中だからといって、引っ越しの回数は制限されません。ただ、費用の支給を受けるには条件をクリアする必要があるため、自己都合で何度も引っ越すと費用が余計にかかってしまう点には要注意です。
生活保護受給中に引っ越したら転居先で再申請が必要?
事前に福祉事務所の許可を得たうえでの引っ越しであれば、福祉事務所間で移管手続きが行われます。この場合、受給者側で再申請などの手続きは不要です。一方、福祉事務所の許可を得ずに無断で引っ越して受給資格を喪失した場合は、転居先で生活保護を再申請する必要があります。
エアコンなどの家電の費用は支給される?
エアコンなどの一部の家電の購入費用は、申請すれば一時扶助の「家具什器費」として支給されるケースがあります。家具什器費の支給対象となるのは、暖房器具・冷房器具・炊事用具・食器類・カーテンなどです。電子レンジや冷蔵庫、洗濯機なども対象で、運搬費を含む費用が支給されます。
家具什器費の上限額は34,400円で、事情があれば特別基準額54,800円まで支給されます。暖房器具・冷房器具については、上限金額に上乗せで費用が負担してもらえる場合もあるので、購入までに福祉事務所に確認しておきましょう。
なお、テレビ・ラジオ・ゲーム機などの購入費用は家具什器費の対象外です。生活するうえで必要最低限のものが家具什器費の支給対象に設定されています。
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